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Under the English Sky


英国、ケンブリッジでの生活で感じたことを書いていこうと思います。
by ellisbell
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Becoming Jane

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映画、"Becoming Jane"を観てきました。

先日のWorld Book Dayの投票でも、数ある古典を抑えてトップに立った「高慢と偏見」を書いたジェイン・オースティン。19世紀の初頭に書いた6冊の小説によって、今も愛される英国の作家です。もっとも平凡でありながら、もっとも英国らしい、穏やかでウィットの効いた素晴らしい作家ですが、この映画は、彼女の人生を特に恋愛に焦点を当てて描いていました。

英国南部ハンプシャーの美しい田舎で生活している穏やかな牧師の娘、ジェインを演じるのはアン・ハサウェイ。活発で、皮肉が好きで、自分の意見をはっきり持った彼女は、ものを書くことが好きで、密かに小説家になりたいという夢を抱いています。姉カッサンドラは婚約し、ジェインの周りにも数人彼女を崇拝する男性がいるのですが、ジェインはその中の誰にも惹かれることはありません。そこにロンドンからやってくる法律家の卵の青年。最初はお互いに反発を覚えつつ、少しずつ二人が惹かれ合っていく様子が、細やかに描かれて行きます。そう、この映画を観てすぐに気付くのは、作家の人生が「高慢と偏見」のストーリーと重ねられているということ。「恋に落ちたシェイクスピア」は素晴らしい映画で、見事に「ロミオとジュリエット」のパスティーシュとして機能していましたが、仕掛けとしては全く同じ。若き日のシェイクスピアが、実際のかなわぬ恋をロミジュリの悲劇に昇華させるプロセスを、「恋に落ちたシェイクスピア」が映画として作り上げたように、オースティンも自らの経験をヒントに小説を書き上げていく設定で、物語が進んでいき、18世紀末から19世紀初頭の英国の田舎村の社交生活を舞台に、ひとりの女性として幸せを模索するジェイン・オースティンが描かれていました。

----以下、もしかしてちょっとネタバレ??-------

もちろん映画化するにあたって、オースティンの伝記や周囲の風俗には入念な注意を払いつつ、フィクション化した作品だとは思いますが、オースティンを「高慢と偏見」のエリザベス・ベネットにそのまま当てはめるという設定は、少し無理があるのではないかと思います。当時の女性がいかに生きるかという大きな問題も諸処で取り扱われていますが(もちろん、それがオースティンの小説の一番大きなポイントですから!--ただし彼女の小説の中では、それは常に結婚として出てくるのですが)、少し取り扱いが中途半端な気がします。例えばいかにもオースティン的な、田舎の貴族からの結婚申し込みを拒絶するジェインに対して、娘の幸せを願う母親が、"Affection is desirable, but money is absolutely indispensable!"と激して言う場面がありますが、まさにこれこそが「高慢と偏見」の世界。オースティンの穏やかな作品世界では、法的に財産権のない当時の女性が、結婚という手段でしか生き残れないという根本的事実は、揺るがないものとして扱われていますが、それに対して「愛情」を叫ぶこの映画のジェインは、完全にロマン派的な人物造形として描かれていて、彼女らしい予定調和的世界を乱す結果になっているように思いました。これでは、オースティンは激しい、反抗的な、そして恐るべきロマン派の自我を持ったジェイン・エアになってしまいます!ウィットに富んだ言葉が映画のあちこちで美しく使われているのは、とてもオースティンらしくて素晴らしい脚本だと思いましたが、あまりにも恋愛に重点を置きすぎた点で、オースティンの作品世界の穏やかさが損なわれているように思いました。(そしてオースティン自身のイメージも、ちょっと違ったのが残念。アン・ハサウェイが演じるオースティンは、やっぱり元気すぎるような気がします!一種予定調和的な諦念--resignation--は、やはり彼女には必要なのではないのでしょうか。)

今が旬とも言える、ジェイン・オースティンという作家が、逆に現代にどのように捉えられているか、あるいは彼女のどういう面が受け入れられているかという点を考えるには、とてもおもしろい映画だったと思います。そして、同じく恋愛映画になった"Miss Potter"が、湖水地方の美しい自然を強調していたのに対し、"Becoming Jane"はやっぱり社会、そして言葉が大事にされていたのもおもしろいところだと思いました。
by ellisbell | 2007-03-13 05:31 | literature
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