Under the English Sky


英国、ケンブリッジでの生活で感じたことを書いていこうと思います。
by ellisbell
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2006年 08月 01日 ( 1 )

Jane Eyre

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先日、ロンドンで、「ジェイン・エア」の舞台を見てきました。

5月から気になっていたのですが、なかなか見に行くチャンスがなく半ばあきらめかけていましたが、HPでチェックしたところ、好評につきロングラン決定とのこと。ロンドンは、オフ・ウエストエンドのTrafalgar Studios。その名の通り、ナショナル・ギャラリーやネルソン提督像のある、トラファルガー広場のすぐ近くです。フラッと「今日の席空いてる?」とのぞいたところ、土曜のマチネだったのに、ちゃんと席が取れました。小さな劇場なので、真ん中後ろよりの席をゲット。プログラムを買って読みながら、開演を待ちます。土曜のお昼間ですが、観客は50人ほど。お年寄りや学生もたくさん来ています。ヨーロッパって舞台芸術が特別なものでないところがいいよね、と思っている間に、席が余ったらしく、もう少し前に降りてきなさいとのアナウンス。お値段以上の席に座れることになります。お隣に座ったのはどうやらドイツ人学生旅行者ふたり組。「ジェイン・エア」は全世界的に人気があるのでしょうか。しかしやっぱり女性の方が割合は多い感じです。

もちろん、これはCharlotte Bronteのベストセラー小説Jane Eyreを舞台化したものです。脚本、演出はPolly Teale。まだ若いけれども評価の高い脚本家、演出家です。彼女はブロンテに興味があるらしく、以前にもAfter Mrs Rochester(もちろん、ジェインの相手であるロチェスターの、狂える妻バーサを念頭に置いています)という舞台を手がけています。こちらは出版された脚本しか読んだことがなかったのですが、なかなかおもしろかったし、劇評もよかったので、今回も楽しみにしていました。

プロットはご存じの方も多いと思いますが、不器量な孤児ジェインが苦しい子供時代を経て教育を身につけ、家庭教師となった先の貴族、ロチェスターと恋に落ちます。身分の差を乗り越え、結婚しようとしたまさにその結婚式で、実はロチェスターにはバーサという狂った妻がいて、イギリスの法律によって彼は離婚できず、つまりはジェインと結婚できないことが分かるのです。悲嘆に暮れたジェインはロチェスターの元を離れ、荒野をさまよった末にセント・ジョンという牧師に助けられ、そこで村の小学校の教師をしながら生活をします。彼女の忍耐強さを見込んだセント・ジョンは、彼女に結婚してインドへの伝道に同行して欲しいと頼みますが、ロチェスターのことが忘れらないジェインは、神にどうすればいいのか助けを求めます。その時ロチェスターが彼女を呼ぶ声が聞こえ、彼女はロチェスターの元へ戻るのです。バーサは狂気の末に館に火を放ち投身自殺、助けようとしたロチェスターは片腕と視力をなくします。ジェインは今やロチェスターの片手となり目となって、一緒に幸せな生活を送るのです。

ブロンテ研究の必読書に「屋根裏の狂女」という批評書があります。1970年代に出た、フェミニズム理論に基づいた大変おもしろい本ですが、そこで著者が述べているのが、ジェインとバーサは実は裏表であり、同じものだという理論です。ヴィクトリア朝という束縛の強い社会の中で生きる女性ジェインができないことを、バーサがしているのだ、だから結局バーサがロチェスターに与えた懲罰は、ジェインが与えたかったものなのだ、という論。Tealeはこれに大きな影響を受けたようです。After Mrs Rochesterでもそうでしたが、この劇でもバーサは最初から最後までずっと舞台にいて、最初は子供時代のジェインにつきまとう狂気の女として現れます。子供のジェインは、あってはならないその存在に気付いていて、必死で彼女を振り払おうとします。いったんは成功したように見えるのですが、その狂女はバーサという形で再度舞台に登場し、バーサという人物が焼身自殺を遂げた後も、バーサ的なるものはロチェスターと出会って激情に目覚めたジェインに最後までつきまとう。特に子供時代にすでにジェインがバーサ的なるものの存在に気付き、押し殺そうとしているという解釈がとてもおもしろかったです。それから、ジェインが映画で描かれてきたストイックな雰囲気とはずいぶん違う、肉体的な欲望に駆られる女性として描かれていたのも特徴的でした。その欲望があるからこそ、彼女は激しく自分のバーサ的なるものにあらがわなくてはならなかったのですね。

大道具や舞台装置はまったく変化なく、人物が動いて場面の転換を表していたのもとてもおもしろかったです。だからこそバーサが舞台に出ずっぱりということが可能になったわけです。映画と違って3時間以上の長い舞台でしたが、大筋ですべてのプロットを組み込んだ、意欲作でした。3時間の異次元空間。The Timesの劇評、"You feel you are looking into the heart of Bronte herself."というより、Jane自身の心の葛藤をまざまざとうまく視覚化した舞台だったと思います。小説の視覚化にはいろいろ問題がありますが、現代的で、解釈も優れた、佳作だったと思います。
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by ellisbell | 2006-08-01 05:41 | literature


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