Under the English Sky


英国、ケンブリッジでの生活で感じたことを書いていこうと思います。
by ellisbell
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Never Let Me Go

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カズオ・イシグロのNever Let Me Goを読みました。

イシグロといえば、ブッカー賞を取って映画化もされた「日の名残」が有名な日本生まれの英国人作家(今は帰化しているはずです)。"Never Let Me Go"も、2005年のブッカー賞のファイナルまで残った作品ですが、とても重いテーマを扱いながら、引き込まれてしまう、イシグロらしい世界でした。

喪失感と切なさに満ちた物語。今までのイシグロの作風とはテーマは少し違うのですが、独特の世界を繰り広げる口調は、さすがにみごとだと思いました。この物語は一人称で、過去を思い出しながら出来事をつなげていく形で語られているのですが、その語り方がとても上手だと思います。最初の数ページははっきりと事態がつかめないまま読み進めて行くことになりますが、次第に芋づる式に、語り手がいろいろな出来事を思いだしていくにつれて、状況の特異さがあらわになっていき、読者が漠然と感じている不安が現実となっていくのです。長崎生まれの彼は、ほとんど日本語を話せないそうですが、何と言っても非常に美しい英語でしっとりとした独特の世界を織り上げていく彼の小説は、読者を物語の世界に引き込む力を持っていると改めて実感しました。page-turningとはまさにこのことです。

もちろん、読者に最初に不安を抱かせて、その謎を解いていくようなサスペンス的手法を使っているなどという、テクニカルな面でも彼の技術は卓越していますが、それ以上に彼の描いている、静かな、悲しみに満ちた世界は本当に胸を打つものがあります。数人の若者たちの関係を描きながら、人間の存在とはいったい何か、記憶とはいったい何かという大きな問題をゆっくり考えさせてくれる作品。一人称の語り手が自分と、友達や恋人との人生を語る、その抑えたトーンが、イシグロ独特の静かな切なさを持って読者に迫ってきます。プロットや状況説明のおもしろさもさることながら、その口調で独自の世界に読者を引き込んでいくその力が、イシグロの素晴らしさだと思いました。喪失感と切なさに満ちた物語ですが、不思議に絶望は後に残らないのが驚きです。絶望的な状況で物語は終わるはずなのに、絶望とニヒリズムではなく、読者に深く深く人間存在の状況を再考させる方向に、彼の物語は進んでいきます。今まで読んだ彼の作品の中で、もっとも好きな作品かもしれません。感動と呼べるかどうかは分かりませんが、余韻がしばし消えない、素晴らしい作品でした。
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by ellisbell | 2007-01-23 04:48 | literature
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