Under the English Sky


英国、ケンブリッジでの生活で感じたことを書いていこうと思います。
by ellisbell
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
カテゴリ
以前の記事
お気に入りブログ
link

カンタベリー

c0105386_20453490.jpg時は4月ではありませんが、城壁に守られた大聖堂の街、カンタベリーに先日行ってきました。10年ぶりです。

カンタベリーと言うと、英語の父(でしたよね?)と呼ばれるChaucerのCanterbury Talesで名高い、英国最大の巡礼地。その名前を聞くだけで、院生時代、小さな教室の机を囲み、S先生の「古中英語」の授業で、のんびり穏やかに物語を読んでいったことを思い出します。そう、英語自体が中期英語で書かれているので、注はついていましたが、予習するのにもやたらと時間がかかったなぁ。私たちが、「枕草子」や「徒然草」の一部を暗唱できるように、英国人は「カンタベリー物語」の序章を暗唱します。"Whan that April"で始まる、あの序章です。(「ホワーン、サット、アープリル」と某英国人の先生は中期英語の発音で暗唱していたことを思い出します。)4月の雨が3月の乾きをいやし、植物に活力を与えるとき、人々はカンタベリーに向かって巡礼の旅に出るのです。今は同じ雨でも秋に向かう冷たい雨ですが、10年ぶりのカンタベリーは変わらず美しい街でした。

ケンブリッジからはまずロンドンのキングスクロス駅に出なくてはなりません。ハリーポッターで有名な駅ですが、ロンドンはヨーロッパのほかの都市と同じく、目的地の方角によって駅が違うので、イングランド南東部のケント州を目指すためには、ヴィクトリア駅まで出なくてはなりません。(昔行った時は、グリニッジのそばにいたので、チャリングクロスから行ったことを思い出します。)地下鉄で移動し、ヴィクトリア駅からドーヴァー行きで約1時間半。カンタベリーがこんなにドーヴァーの近くにあるということに、今回初めて気付きました。ロンドンから南東へ100キロ少し。昔は徒歩でゆっくり3,4日かけて巡礼したから、長い道のりだから一人ずつが物語をしましょう、というあの「カンタベリー物語」が成り立つわけですね。何のための巡礼かというと、もちろんカンタベリーには、現在では英国国教会の総本山である、カンタベリー大聖堂があるからです。現在では、というのは、これまたもちろん、チョーサーの時代には英国はカトリックだったから。(だから修道僧とか、修道女とかが登場人物で出ているのですよね。)しかし、何ともダイナミックな変化。カトリックの中枢から英国国教会の総本山になるとは。宗教的にだけでなく、政治的にも、歴史的にも、なかなかおもしろい場所なのです。

パンフレットによると、大聖堂は聖アウグスチヌスによって、6世紀後半に作られます。ノルマン・コンクエストの後、イングランド一の格を与えられたという記述からも、この大聖堂がカトリックの中枢であったことが裏付けられています。しかしそれ以上に、中世には、ヘンリー2世によって暗殺されたという、トマス・ベケットの死後に起こったとされるさまざまな奇跡が、この地を英国一の巡礼地にしました。(その辺りも聖人伝だの何だのと、カトリックですよねえ。)そして、その後に起こったヘンリー8世の宗教改革。国教会を起こしたヘンリー8世はすべての修道院も力のある大聖堂も閉鎖してしまったので、カンタベリー大聖堂が受けた打撃も大きかったことでしょう。さらには英国はピューリタン革命も経験していますから、その時にも大聖堂は苦難の道を強いられたはずです。しかし、今では国教会の中枢である大聖堂のパンフレットはそのような都合の悪いことはすべてとばしています。「宗教改革によって聖人崇拝などが一掃された後でも、中世の巡礼者を惹きつけた同じ信仰と献身が、このキリスト教会に世代を超えた崇拝者を惹きつけ続けている」とあるだけです。うーん、これだけ大きな組織になると、さすがに宗教も政治ですね。

c0105386_20462471.jpgさて、大聖堂。さすが国教会の総本山(ちなみにナンバー2はヨークの大聖堂)。美しく荘厳な建物です。そして、特徴的ではありますが、プロテスタントなのに中世そのままの美しいステンドグラスが教会を飾り、穏やかな聖人像が回廊に並びます。強大な力を感じさせる、荘厳な建物。しかし不思議にも威圧感よりも美しさの方が印象に残ります。トマス・ベケットが暗殺された場所には、今も3本の剣が示され、一度は取り壊された、ベケットを祀るチャペルも今では再び造られています。カトリックと国教会の奇妙な融合ですね。と、言うか、そもそも国教会自体がカトリックへの反発ではなく、ヘンリー8世の個人的な理由で行われた宗教改革ですから、たくさんカトリックとの共通点もあり、奇妙な宗派と言えるのでしょうけれど。地下のクリプトには多くの宝物が納められ、もちろんお墓もたくさんあります。ゆっくり時間をかけて大聖堂をまわり、出ようとしたところでオルガンの音が鳴り響きました。単なる練習のようでしたが、やはりこの雰囲気の中で聴くパイプオルガンの響きは素晴らしい。続いて聖歌隊が練習していたのか、コーラスも聞こえて来ます。音響も素晴らしいし、カンタベリーの聖歌隊もなかなか名高いので、思わずグレゴリオ聖歌とキャロルを買ってしまいました。そして、国教会の祈祷書も。黒装丁のなかなかきれいな装本です。それから、10年前に、カンタベリー・クロスという十字架のシルバーネックレスを買いましたが、それが同じく売られていたので、またもやサイズと色が違うものをゲットしてしまいました。ケルト文様とは違うのに、なんだか不思議な類似点があります。よく、お守りのように身につけているので、この日も小さいシルバーの方をつけていたら、大聖堂の売り場のお姉さんがニコッと笑って指さしました。(まさか二つも持っているとは思っていないでしょうけれど☆)

c0105386_20455796.jpgヘンリー8世が行った修道院解散のせいで、もともと大聖堂に付属していたベネディクト派の修道院も今では朽ち果て、趣のある雰囲気を添えています。(こんなことも10年前には気付かなかったなあ。)本当は少し離れたところにある、聖アウグスチヌスの修道院跡にも行ってみたかったのですが、ケンブリッジは遠いので断念。古い城壁都市によくあることだと思いますが、一般の人がたくさん城壁や大聖堂の横を通り抜けて生活しているのですね。廃墟となった回廊を歩いていると、学校があるらしく子供がそばを走って行きました。幾多の歴史の変動がありながらも宗教と大聖堂を中心に存在してきたこの街には、いまだ中世の面影がたくさん残っています。街中には大きなショッピングセンターもあるけれど、それが古い街並みと不思議に共存している、素敵な街でした。
[PR]
by ellisbell | 2006-08-24 20:45 | trip
<< ナショナル・ポートレイト・ギャラリー The Orchard >>


ライフログ
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧